東京高等裁判所 昭和46年(ネ)199号 判決 1973年6月28日
控訴人 有限会社小沢企業
控訴人 小沢宏
右両名訴訟代理人弁護士 武藤澄夫
同 辻誠
同 福家辰雄
同 河合怜
同 中井真一郎
被控訴人 小島一郎
右訴訟代理人弁護士 芹沢孝雄
同 相磯まつ江
主文
原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
被控訴人の控訴人らに対する各請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴人ら代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は左記のほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
被控訴代理人は、後記控訴人の主張の抗弁事実はすべて否認すると述べた。
控訴人ら代理人は抗弁として次のとおり述べた。
控訴人らが、被控訴人から、昭和三一年六月頃に借り受けた金一〇万円、昭和三九年二月頃に借り受けた金一五万円については昭和四三年四月までにその決済がなされ右二口の債務は消滅した。すなわち
(1)右債務のうち金一〇万円は昭和三一年六月頃期限を定めずに借受けたが、借受けのさい金五、〇〇〇円を天引され、以後昭和三四年末までに一ヵ月金五、〇〇〇円宛合計金二一万円を弁済した。右金一〇万円に対する利息は利息制限法の定めにより年二割であるから、過払利息の元本算入によって一年後の元本は金四万九、〇〇〇円となり二年後には元利とも完済され金一、二〇〇円の過払いとなる。したがって、昭和三四年末の時点では、控訴人らは被控訴人に対し元利金完済のうえ金九万一、二〇〇円の利息過払いとなる。
(2)また、金一五万円の債務については、昭和三九年二月借受けのさい金九、〇〇〇円を天引されたうえ、昭和四〇年四月一四日金四、五〇〇円、同年七月二日金二万円、同年同月一七日金一万円、昭和四一年八月二七日金一万円、同年九月二五日金二万円、昭和四二年九月二日金二、〇〇〇円、同年一一月二一日金五、〇〇〇円、昭和四三年四月二一日金五、〇〇〇円をそれぞれ返済した。
控訴人らは前記(1)記載の金九万一、二〇〇円の過払利息については不当利得として返還請求権があるので、右借入金債務とを対当額において相殺する。そうすると残元本額は金四万九、八〇〇円となり利息を利息制限法所定の年二割とすると一年後の元利金は金五万七六〇円(五万九、七六〇円の誤算と認められる)となる。そして前記のように、二年後には利息金三万四、五〇〇円が返済されているので過払利息を元本の弁済に充当すると残元本は金二万六、四一二円となる。三年目には利息三万円が支払われているのでこれも過払利息を元本に算入すると元本は金一、六九四円となり四年目にはさらに金七、〇〇〇円が支払われているから元利金は完済されたうえ逆に金四、九六八円の過払いとなるわけである。
証拠<省略>。
理由
一、被控訴人は、被控訴人の控訴人らに対する昭和三一年から同三九年までの間の貸金合計金二二七万五、〇〇〇円を九口に分け、これを各貸借の目的とし、いずれも借主を控訴会社、連帯保証人を控訴人小沢宏として利息ならびに期限の定めなく、昭和四〇年九月一日金一〇万円、同年同月二日金五万円、同年同月四日金二〇万円、同日金二〇万円、同年同月一〇日金二二万五、〇〇〇円、同年同月一八日金三〇万円、同年同月二五日金二〇万円、同年同月三〇日金五〇万円、同日金五〇万円の各準消費貸借を締結したと主張し、その証書とみるべき甲第一、第二号証、同第四ないし第六号証および同第九号証の各成立については当事者間に争いがなく、同第三号証、第七号証および第八号証については控訴人ら名下の印影の成立に争いがないからその余の部分についても真正に成立したものと推定されるので、他に特段の事情の認められない本件では控訴人らと被控訴人との間において被控訴人主張のごとき準消費貸借契約(それがはたして有効に成立したか否かは後に判断する)が一応締結されたものと推定すべきである。
二、控訴人らは、被控訴人から昭和三一年六月頃金一〇万円、昭和三九年二月頃金一五万円を借受けただけで右金額を超えて金二二七万五、〇〇〇円に達する金員を借受けたことがなく、右二口の債務も昭和四三年四月までに決済されて消滅した。したがって被控訴人主張の準消費貸借契約は一部はその既存債務の存在を欠き成立せず、他の部分は弁済により消滅したと主張するので判断する。
(1)<証拠>を総合すると、控訴人小沢宏は昭和三一年六月頃被控訴人から金一〇万円を利息を月五分とし、期限を定めずに借受け、次いで控訴人らは昭和三九年二月頃被控訴人から金一五万円を利息を月六分とし、期限を定めずに借受けたことはあるが被控訴人から右二口合計二五万円を超えて金員を借受けた事実のないことが認められ、原審証人太田実、原審ならびに当審での証人小島明美の各証言および被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠に照らして信用することができない。
第一表
日時
元本額
支払利息額
制限利息
元本繰入額
31.
6.30
96,583
〃
7.31
5,000
1.609
3,391
〃
8.31
93,192
5,000
1.553
3,447
〃
9.30
89,745
5,000
1.495
3,505
〃
10.31
86,240
5,000
1.437
3,564
〃
11.30
82,677
5,000
1.377
3,623
〃
12.31
79,054
5,000
1.317
3,683
32.
1.31
75,371
5,000
1.256
3,744
〃
2.28
71,627
5,000
1.193
3,807
〃
3.31
67,420
5,000
1.123
3,877
〃
4.30
63,543
5,000
1.059
3,941
〃
5.31
59,602
5,000
993
4,007
〃
6.30
55,594
5,000
926
4,074
〃
7.31
51,521
5,000
858
4,192
〃
8.31
47,329
5,000
788
4,212
〃
9.30
43,117
5,000
718
4,282
〃
10.31
38,835
5,000
647
4,353
〃
11.30
34,482
5,000
574
4,426
〃
12.31
30,056
5,000
500
4,500
33.
1.31
25,556
5,000
425
4,575
〃
2.28
20,981
5,000
349
4,651
〃
3.31
16,330
5,000
272
4,728
〃
4.30
11,602
5,000
193
4,807
〃
5.31
6,795
5,000
113
4,887
〃
6.30
1,908
5,000
31
4,969
過払3,061
〃34.
7.31~
12.31
18ヵ月分
5,000宛
計90,000
過払93,061
第二表
日時
元本額
支払利息
制限利息
元本充当額
39.
3.1
50,054
39.3.1→39.8.31
分に充当
40.
4.14
4,500
〃
7.2
20,000
39.9.1→40.7.2
(10月2日)7,528
12,472
〃
7.17
37,582
10,000
40.7.3→40.7.17
278
9,722
41.
8.27
27,860
10,000
40.7.18→41.8.27
5,818
4,182
〃
9.25
23,678
20,000
41.8.28→41.9.25
355
19,645
42.
9.2
4,033
2,000
41.9.26→42.9.2
675
1,325
〃
11.21
2,708
5,000
42.9.3→42.11.21
108
4,892
2,184過払
〃
4.21
0
5,000
7,184過払
もっとも、前掲甲第一号証ないし同第九号証によると、控訴人らと被控訴人間に約された準消費貸借の金額の合計が金二二七万五、〇〇〇円となることが認められるが、前掲証人小沢きくゑの証言、控訴人小沢宏本人尋問の結果および原審ならびに当審での証人小島明美、被控訴人本人尋問の結果の各一部によると、控訴人小沢宏は昭和四〇年九月頃被控訴人から「家屋を新築するための資金を他から借用するについて、債権のあることを示す必要があるから書いて呉れ」との趣旨の依頼を受け、予め被控訴人において用意した市販の用紙に一方的に金額および日附を記載した「借用金の証」と題する書面(甲第一ないし同第九号証)に、依頼されるまゝ署名押印して被控訴人に交付したものであることが認められ、前掲小島明美の証言および被控訴人本人尋問の結果中この認定に反する部分もにわかに信用し難いから、右甲号各証は既存債務額の存在を証明する証拠とはならない。成立に争いのない甲第一一号証ないし同第一四号証によっても上記の認定を左右しえないし、他に以上の認定をくつがえし、金二五万円の限度を超える既存債務の存在を認めるに足りる適確な証拠は存在しない。
(2)<証拠>によると、控訴人小沢は前記認定の昭和三一年六月金一〇万円を借受けたさい、被控訴人から約定の月五分の割合による一ヵ月分の利息として五、〇〇〇円を天引されて現実に九万五、〇〇〇円の交付を受けたことおよび昭和三一年七月から昭和三四年一二月までに一ヵ月五、〇〇〇円の割合による利息として合計金二一万円を支払ったことが認められ、他に右認定を左右しうる証拠はない。
そうすると、利息制限法第一条第二条により、右消費貸借契約においては、天引された五、〇〇〇円のうち現実に交付された金九万五、〇〇〇円に対する年二割の一ヵ月分の利息額を超える部分金三、四一七円は元本の支払に充てたものとみなされるから、結局昭和三一年六月における元本額は九万六、五八三円(95,000×0.2×1/12=1,583 5,000-1,583=3,417 100,000-3,417=96,583)
となる。そして末尾添付第一表記載のとおり前記認定の支払利息から利息制限法所定制限利息額を差引いた残額を元本額に充当すると、右債務は昭和三三年六月の時点において完済され、昭和三四年一二月においては金九万三、〇六一円の過払となることが算数上明らかである。
(3)<証拠>によると、控訴人らは前記認定の昭和三九年二月に金一五万円を借受けるにあたり被控訴人から約定の月六分の割合による一ヵ月分の利息として金九、〇〇〇円を天引されて、現実に金一四万一、〇〇〇円の交付を受けたこと、および約定の利息として昭和四〇年四月一四日金四、五〇〇円、同年七月二日金二万円、同年同月一七日金一万円、昭和四一年八月二七日金一万円、同年九月二五日金二万円、昭和四二年九月二日金二、〇〇〇円、同年一一月二一日金五、〇〇〇円、昭和四三年四月二一日金五、〇〇〇円の各支払をしていることが認められ、他に右認定を左右しうる証拠はない。
そうすると、前記利息制限法の定めにより、右消費貸借契約は金一四万三、一一五円(141,000×0.18×1/12=2,115 9,000-2,115=6,885 150,000-6,885=143,115)の限度で成立することになる。ところで、控訴人小沢宏は、前記(2)において認定した過払金中金九万三、〇六一円につき被控訴人に対し不当利得として返還請求権を有するものと解すべきところ、本訴において同控訴人は被控訴人に対する右過払金返還債権と上記金一四万三、一一五円の債務とを対当額で相殺する旨の意思表示をなし、右両債務はともに弁済期が到来し相殺適状にあることが明らかであるから右相殺の結果被控訴人の右消費貸借上の債権は金五万〇、〇五四円残存することになる。そして、これに対し末尾添付第二表記載のとおり前記認定の支払利息額から同法所定制限利息額を差引いた残額を元本に充当すると右債務は昭和四〇年七月一七日の時点においては残元金二万七、八六〇円となり、昭和四二年一一月二一日に完済となりなお金二、一八四円の過払いとなることが算数上明らかである。
以上のようにみてくると、被控訴人の主張する昭和四〇年九月一日当時における既存債務は金二万七、八六〇円であるから右の限度でのみ準消費貸借契約は適法に成立したものと解すべきであるが、右債務もまた上記認定のとおり弁済されて消滅したものというべきである。
三、よって、被控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れず、原判決中右と認定判断を異にし、被控訴人の請求を認容した部分は失当であり、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長判事 浅沼武 判事 杉山孝 園部逸夫)